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三毛猫レクイエム

部屋の前にいた三毛猫は、困って固まっていた私の足元で顔を上げた。

 みゃあっ

 その仕草が妙に可愛く、私はそっとその三毛猫を抱き上げた。

「あ、首輪・・・」D5 原液


 よく見れば、水色の首輪にアクセサリーがついている。

「っ・・・」

 そのアクセサリーを見て、私ははっと息を呑んだ。それは、“Cat‘s Tail”のロゴだったからだ。
 もしかすると、この三毛猫の飼い主は“Cat‘s Tail”のファンなのだろうか。何気なしに裏返してみると、そこにはYOSHIと刻まれていて、携帯番号らしき数字の羅列があった。
 私は辺りを見回す。誰も見てはいないし、いくらペット禁止でも一日預かるくらいは問題ないだろう。

「君、静かに出来る?」

 みゃ

 まるで人の言葉を理解するかのように短く鳴いた三毛猫に、私は微笑んだ。そして三毛猫を抱え上げたまま、部屋に入った。

「ただいま」

 誰もいない部屋とわかっていても、そう口にするのは、あきが応えてくれるんじゃないかというありえない思いのせいだ。
 一年経っても、あきが死んでしまったという事実は私にとって夢のような出来事で、靄がかかったかのような妙な距離感があった。
 ひょっこり現れるんじゃないかとか、何かの間違いだったんじゃないかとか、そんなことを考えても仕方ないことはわかっている。
 それでも私の中のあきの存在は色褪せることなく輝いていて、あきの声が幻聴のように耳に響いている。今では、音源でしか聴くことのできない声なのに。

 そっとソファに座って、三毛猫をおろした。三毛猫は私に擦り寄ってくる。

「・・・可愛い」

 YOSHIと刻まれていたのは、この子の名前だろうか。

「ヨシ?」

 ためしに呼んでみると、三毛猫はぱっと顔を上げた。まるでそれが自分の名前だとわかっているかのような仕草に、私は感心する。

「君は、ヨシっていうの?」

 みゃ

「ふふ、頭がいいんだね」

 私はくすっと笑って、携帯を手にし、刻まれていた番号を押した。
 数回のコール音の後、

「・・・もしもし?」

 訝しげな低い男の声が電話に出た。

「もしもし、あの、こんばんは。三毛猫を拾って、首輪にこの番号があったのですけど」
「えっ、本当ですか?!」

 返ってきたのは、驚いたような声だった。
「今日は遅いですし、一日うちで預かりますから、明日の朝迎えに来て上げてください」
「あ、ありがとうございます。俺、さっきからヨシのこと探してたんです・・・あ、俺、阿東っていいます」
「姫木です。えっと、この子みつけたのは、島田町なんですけど・・・」
「えっ、島田?!あー、明日どこに迎えに行けばいいですか?」

 さすがに家の住所を教えるのは気が引けたので、近くの公園で待ち合わせをすることにした。

「わかりました。本当にありがとうございます」
「いえ、それでは明日」
「おやすみなさい」蒼蝿水


 電話を切って、私はヨシを抱きかかえた。そしてふと気づく。

「あれ、君、男の子なの?」

 みゃあ

 ちょっと怒ったように鳴くヨシに、私はごめんごめんと謝った。

「三毛猫は、ほとんどがメスなんじゃなかったっけ」

 一人呟いても、答えてくれる人はいない。ヨシがじっと私を見つめている。その瞳に、なぜか胸が締め付けられるような気分になった。
 ヨシを見ていると、あきを強く感じる。その理由に思いをめぐらし、そしてはっと気づいた。

 ヨシは、あきと同じ瞳の色をしていた。



第一章 深き、緑の視線



 緑がかったあの目と視線がぶつかったとき、私の時間がとまったような気がした。


 私が初めてあきと出会ったのは、当時気に入っていたバンドのライブで出待ちをしているときだった。
 会えるかどうかはわからないのに、勝手に高まる期待。この高揚感が出待ちの醍醐味でもあった。
 そんな中、ニットの帽子をかぶった黒髪の男とレザースーツ姿の赤髪の二人組が通りかかる。

「あれ、誰かの出待ち?」

 赤髪の方が、気さくに声をかけてきた。見た目からしてバンドマンなのだろうけど、私は彼らの顔を知らなかった。だから、答えに詰まってしまった。

「テツ」

 笑いを含んだ低い声を聴いた瞬間、私は心がしびれるような衝撃を受けた。

「その子、困ってる」
「んだよ、タキは堅いなぁ」

 私が、タキと呼ばれた彼を見ると、深い緑のような瞳と目が合った。
 その瞬間、私は心臓をつかまれたかのような衝撃とともに息を呑んだ。彼も、長いまつげに縁取られた目を見開いた。
 そのときの感覚は、説明しがたい。ぎりぎりのところにあった磁石同士が、何かの拍子にくっついたかのような、そんな感覚。

「・・・誰、待ってるの?」
「し、シルクウェイヴの翔さんです」

 黒髪の彼は、まじまじと私を見ながら、

「翔なら、随分前に出て行ったよ」

 そう教えてくれた。私は、彼から目が離せなかった。
「なあ、君、名前は?俺はテツ。よろしく」

 横手から赤髪の男――テツが名乗った。私ははっとして、

「姫木真子です」

 思わず名乗ってしまった。

「真子ちゃん?へえ、いくつ?」
「テツ、そこまでにしとけって。真子ちゃん困ってるから」
「ちぇっ、タキは堅いな」

 そう言いながらも、テツは笑っている。大して気にしている様子ではなかった。

「今から帰るの?」
「あ、えっと・・・」

 確かに目当ての翔がいないのなら、帰るしかない。だけど、私は返答に困った。それは、タキのことが気になって仕方がなかったからだ。
三體牛鞭

「真子ちゃん、俺らのこと知らないよな」
「ご、ごめんなさい」
「はは、仕方ないよ、俺達まだ音源出してないし」

 タキはそう言って笑った。こんなに目立つ人、気づいてもいいのに。どうして今まで知らなかったんだろう。

「俺らのバンド、“Cat‘s Tail”っていうんだ。俺がヴォーカルで、テツがドラム」

 この低く痺れるような声で歌ったら、きっと私の心は一気につかまれる。今でも、耳に届く声だけで痺れきっているのだから。

「絶対今度、チェックします」

 私の言葉に、タキが笑った。その笑顔が印象的で、私は見惚れてしまう。と、テツがにやりと笑った。

「あっれ、タキ、真子ちゃんのこと気に入っただろ」
「えっ」
「うん?」

 テツの言葉に、タキは済まし顔で彼を見た。しかしテツはにやにや笑っている。

「堅物のタキも、男だったんだな」
「俺が男じゃなかったらいったい何なんだよ」

 そう言って、タキは私に向かってウィンクを投げた。

 細められた深い緑の視線に、見つめられたい。そんな衝動に駆られていた私の心は、そのときからあきに奪われていたのかもしれない。



 みゃあっ

「きゃっ」

 回想にふけっていた私は、突然ひざの上に乗ってきたヨシに驚いて現実に戻ってきた。

 みゃあ

 膝の上から私を見上げて、満足げな顔をするヨシ。

「何、わがままだね」

 のどのところをなでてやると、ヨシは嬉しそうにのどを鳴らした。
「・・・ヨシ、か」

 よしは、あきの名前の半分。同じ目の色をしてるあきとヨシ。

「あき、私に会いに来てくれたの?」

 そんなことはないと頭ではわかっている。死んだ者は帰ってこない。死んだ者には会えっこない。
 何度も、何度も思い知らされている。あきは、死んでしまったんだって事。

「あき・・・っ」

 みゃぁ

 それでも、永遠に失われた温もりが私の元に戻ってきたような錯覚を覚えて、私はヨシを抱きしめた。

 愛しい人、私は今でもあきの笑顔を鮮明に思い出せる。
 あきのいない一年は、長いようであっという間だった。
 深い緑の瞳に見つめられたことも、細長い指で触れてくれたことも、低く甘い声で囁いてくれたことも、何もかもを思い出せる。

 前を向いて歩いていくんだぞ。

 死期を悟っていたあきの言葉の意味は、理解できる。
 あきが死んだら、あきのことを忘れて、歩いていけってことだ。

 実際、何度も言われた。
 もう忘れなさいって。TAKIは死んだんだからって。

 だけど、忘れることなんて出来るわけがなかった。

 私にとって、唯一無二の最愛の人。
 大勢のファンにとってはTAKIだったかもしれないけど、私の前では私だけのあきだった。

 TAKIなんて人は知らない。私が知ってるのはあき。

 音楽が好きで、病に冒されてもなお、歌を歌いたいと願っていた。


「あき・・・っ」

 あふれ出る涙が、枯れることなんてない。

 涙が枯れたら、前を向いていけって言ったけど、私はあきのことを思うたびにあふれる涙を確認しては、まだあきのことを想っていてもいいんだと思い直すんだ。


 忘れたくなんかない。
 もしかしたら、一生想い続けるかもしれない。

 世界中の誰もがあきのことを忘れたとしても、私はあきのことを忘れない。
 あきの笑顔も、声も、仕草も、全部、忘れない。三鞭粒



 声を殺して、あきの名を呼びながら泣く私を、あきと同じ色の瞳が見つめていた。

酔惑―其の二―

「…りょーこさん、少しお聞きしたい事があるんすけど。」

「え?何でしょうか。」

「蒔田さんとは、お友達なんすか。」

「…どうしてですか。」終極痩身

「蒔田さんが、りょーこさんの事を呼び捨てで呼んでいたので。」


書籍を取りに来て鉢合わせになった時に、
ヒロタカが“リョーコ”と言っていた気がする。

確かに名前で呼び合う仲で知り合いじゃないと言うのは不自然だ。

「えぇ、大学時代からの友達なんです。今日久しぶりに会ったんです。」

「そうなんすか。何だか親しげだったので、お付き合いされているのかと思いました。」

「ま、まさか!そんな訳、絶対にありません。」

動揺と嫌悪感で少し前に乗り出してしまった。
彼は少し驚いた様子で口に運んでいたお猪口の手を止めた。

「そうなんすか。なんか失礼な事聞いてしまってすんませんでした。」

「い、いえ。そんな事ないです。
私こそ、何だかムキになって否定してごめんなさい。」

「へぇ…。りょーこさんは本当面白いす。一緒にいると、…楽しいす。」

「え、それは、どうも…。」

やっぱり変な女と思われているのだろうか。
…思われてるんだろうな。
でも、一緒に居ると楽しいって事は好意は持ってくれていると思っていいのかな。

日本酒が美味しくて、いつもより早いペースで呑んでいるから酔いが回るのが早い。
上手く定まらない思考で考えると、
期待と不安や色々な感情が混じり合ってわからなくなる。

「時間、大丈夫すか。」

「え、えっと…。」

腕時計を見るともう23時を過ぎていた。
楽しい時間はどうしてこんなにも早く過ぎるのだろう。

「そろそろ、行きましょうか。」

「…そうですね。ご馳走様でした。」

店を出ると少し肌寒かった。
この前までは本当に過ごしやすい気候だったのに、
最近は寒くなったり、暖かくなったり何だか不安定な気温だ。
彼が駅まで送ってくれると言うので、
酔い覚ましに隣の駅まで歩く事を提案すると、快く了承してくれた。
本当は少しでも一緒にいれる時間を引き延ばしたいだけなのかもしれない。
駅が近くなると、彼が私の前に立って、じっと見つめてきた。
あの目で見られると、 Cialis 何だか目の中に吸い込まれそうな感覚になる。
顔が近づいてくる。 これって、

―キスされるのかな。

どうしよう。
キスぐらい良いのかな。
でもまた傷つくのだろうか。
そんな事を回らない頭で考えながら目を閉じる。

ふわっ……。

髪の毛に何かが触れた感覚があった。

「…りょーこさんの前髪に、桜の花びらついてましたよ。」

「え、あ…。花びら…。」

「へぇ、多分、さっきの店の桜が落ちてついたんじゃないすかね。」

彼の手のひらに小さな白い花びらがのっている。

「あははは。びっくりしたー。」

突然私が笑い出したので、彼は『?』という顔を此方に向けている。

本当私って馬鹿だな。
キスされる、なんて思っちゃったじゃない。
柄にも無く緊張したりして、本当馬鹿だ。

…何だか少し切なくなってきてしまった。


「…今日は本当ご馳走さまでした。長い時間ご一緒出来て私もとても楽しかったです。」

「いえいえ、こちらこそ色々ありがとうございました。また店に遊びに来てください。」

彼はいつものようにぺこりと頭を下げた。
勘違いしてしまった恥ずかしさと切なさで早くこの場から立ち去りたい気分で一杯になった。
営業スマイルを浮かべ駅へ歩き出そうとした時、後ろから呼び止められた。

「りょーこさん。」

「…はい。」

「あの、来月、うちの商店街でお祭りがあるんす。季節外れのお祭りなんすけど、
結構毎年盛り上がるので、良ければ一緒にどうでしょうか。」

「え…それって、デートのお誘いですか。」

自分でもそんな事がよく言えたと思う。
酔っているのと、この際どうにでもなれと自棄になったのかもしれない。

「へ?…でーと。デート…。…そうすね。ED シアリスデートのお誘いすね。
如何でしょう。ワタシと一緒に、雪ノ下祭に行ってもらえませんか。」

真っ直ぐこちらを見ている彼はいつもよりもキリっとしているように見えた。
こんなに真正面からデートを申し込まれた事なんて無いから、
自分で聞き直しておいて、ドキドキしてしまう。

「…私で良ければ、喜んで。」

そう答えると、彼はいつものように猫の微笑みで頭をかき、
また詳しくは今度話すと言って頭を下げた。
私も軽く頭を下げると、少し早歩きで駅の改札に向かった。
―藤本さんとデート。

男の人とちゃんとしたデートをするのはいつぶりだろうか。
さっきまであんなに落ち込んでいたのが嘘のように胸が子供みたいに高鳴った。
ふわふわとした気分で電車に乗る。
椅子に座ると、ひざの上に桜の花びらが舞った。
その花びらをまじまじと見た後、手帳の表紙に挟んだ。
私の心は人並みに、女の人のように、花のように移ろいやすい。

意外と自分にも女らしい一面、あるんだな。

そんな事をふと客観的に考えてしまった。
そうゆう所がいけないところなのかもしれない。
でも、とにかく来月が待ち遠しい。紅蜘蛛
また来週から仕事が頑張れそうだ。
私は、幸せな気持ちの中で家路に着いた。

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関連情報:曲美

卒業ーー第8話

どのくらいそうしていたかはわからないが、もうかなりの時間が経っている気がする。
「凛先輩…もう大丈夫ですか?」
僕のその言葉に、凛先輩は反応し、すばやく顔を上げた。
「!」K-Y
あまりの近さに唇と唇が触れそうになり、僕はとっさに離れた。
「……ああ」
凛先輩は顔を赤くしながら頷いた。
そしてゆっくりと立ち上がる。

「…はい、ぼーやも。立って」
「え、あ、はい」
そうして凛先輩と向かい合う。

「あー…恥ずかしいところ見せちゃったな」
「凛先輩のあんな姿、初めてでしたが、すごく可愛かったです。口調も泣き叫んでるときだけ女の子っぽくて。すぐに戻っちゃいましたけど」

素直にそう言うと、凛先輩は微かに反応を見せた。

「……まあ、私は学校を卒業するけど、お互い、心は卒業できないみたいだな」
「…はい」
それは当たり前だ。

僕は、凛先輩とはもう離れられない。
「じゃあ、最後に」
「はい…」
先輩はいつもの真面目な顔になる。
「守、これからも私に着いてくるんだぞ!」

「……はいっ!」三体牛鞭

そうして、形だけの卒業式は終わった。

凛先輩が学校からいなくなるのは寂しいけれど。

僕と凛先輩の心は、いつまでも卒業することはないと思う。

卒業ーー第7話

「今日は…ぐずっ…お礼が言いたかったんだ…うっ…私、応援同好会作ったけど…ぐずっ…一年間ずっと一人ぼっちで…寂しかった…あの時誰も入らなかったら…辞めようと思った…でも…ぼーやが入ってくれて…うっ…毎日楽しかったんだ!」
「凛先輩…」催淫
凛先輩のクールな姿も今日だけは抑えられなかったんだな。
俺は凛先輩の前にしゃがみこんで、頭を撫でる。
今まで凛先輩に頭を撫でられることはあっても、撫でたことはなかった。

とてもドキドキする。いつしか胸の高鳴りはすっかり元通りだ。
でもそれは、また違った別の高鳴り。
「私も…ひぐっ…ぼーやと離れたくないんだ…」
先輩はそう小さく呟いて、僕の胸に顔を寄せた。
腕は僕の背中に回されている。
「…凛先輩」催情

僕も凛先輩を抱きしめる。

凛先輩が泣き止むまで、こうしていよう。